高級腕時計として知られるロレックスとミリタリーウォッチは、一見遠い存在に感じられますが、実は歴史をさかのぼると深い関わりがあります。機能美を追求したミリタリースタイルに彩られたロレックス軍用モデルは、単なる頑丈さだけでなく、洗練されたデザインでも魅力的です。本記事ではロレックス軍用時計の歴史や代表モデル、機能・デザインの特徴を解説し、2025年時点での評価やコレクター人気についてもご紹介します。
目次
ロレックス軍用時計とは?歴史と魅力に迫る
ロレックス軍用時計とは、文字どおりロレックスが軍隊や公用機関向けに提供したモデルや、その技術を発展させたモデルを指します。ロレックス自体は「機能美」を追求する高級ブランドですが、歴史的に特殊部隊や海軍などが求める厳格な耐久性・信頼性にも応える性能を備えています。特に第二次世界大戦後から1970年代にかけて、各国の軍がロレックスのスポーツモデルに着目し、ミルスペック(軍事仕様)に改造・採用してきました。
もともと軍用時計に求められるのは動作安定性や防水性、視認性の高さなどですが、ロレックスの軍用モデルはそれらの実用要件に加えて、ブランドならではの優れたデザイン性を合わせ持っています。このため、「丈夫で信頼できるだけでなく、スタイル性も高い」という独自の魅力が生まれました。次にロレックスと軍のつながりを簡単に振り返ります。
ロレックスと軍隊の関係
ロレックスは創業当初から時計の精度と防水性能を高めることに注力し、1930年代には堅牢なオイスターケースを開発しました。戦時中は民間向けの需要は減ったものの、信頼できる計器を求める軍隊から注目されました。例えばイギリス海軍やフランス海軍では、高い防水性や耐衝撃性を持つロレックスが潜水任務や特殊部隊において採用されることになりました。
またアメリカ軍でも一部にロレックスが支給されましたが、当時は国内ブランドが大量調達されていたため、ロレックスはむしろ将校など限定的に使用されることが多く、市場にはあまり流通しませんでした。しかしその希少性ゆえに、いまやロレックス軍用モデルはコレクターの間で伝説的な存在となっています。
ロレックス軍用時計の誕生と沿革
1950~60年代になると、世界各国の軍隊は時計の標準化や安全強化に力を入れ始め、ロレックスはスポーツやダイバーズで評価の高いモデルをベースにミリタリー仕様を供給していきました。代表例はイギリス軍向けのサブマリーナーで、Ref.5513や5517といったモデルが正式採用されました。これらは後に「ミリタリーサブ(MilSub)」と呼ばれ、現在でも高い人気を誇っています。
1970年代にはフランス海軍向けに真空式ヘリウム弁を備えたモデルや、ドイツ国防軍向けの特注なども存在しました。さらに中東諸国や、日本の自衛隊を支援した例ではUAE空軍向けの特別モデル(Ref.6694)も作られるなど、国や時代に応じた軍用バリエーションが生まれています。こうして生まれたロレックス軍用時計は、軍事目的の要求を満たしながらもロレックスらしい上質な仕上がりを持ち、今日まで語り継がれる由緒あるコレクションとなっています。
軍用時計に求められる要素
軍用時計には、一般モデルよりさらに高いレベルの耐久性と機能性が求められます。具体的には防水性能、耐衝撃・耐磁性、暗所での視認性、衝突や過酷な環境にも耐える強固な構造などです。ロレックス軍用モデルではステンレス製ケースやサファイアクリスタル、堅牢な巻き上げ機構を採用し、これらの要件に応えています。
さらに、ミリタリーウォッチではNATOタイプのナイロンストラップが多用されるように、ロレックスの軍用時計でもストラップの脱落を防ぐため溶接バー固定式のラグやナイロンベルトが使用されました。これにより、万一ベルトが外れても時計本体は落下せず、戦場での信頼性が高まりました。次項からは具体的な代表モデルを見ていきましょう。
軍用ロレックスの代表モデル

ロレックス軍用モデルの中でも特に注目されるいくつかのモデルを紹介します。これらは実際に軍隊で使われた特殊仕様で、一般世に出ることの少ない希少なものです。
サブマリーナーRef.5513/5517(英国軍モデル)
1960~70年代に英軍で採用されたサブマリーナーが、この5513/5517です。一般向け5513をベースにした軍仕様で、5517は特に溶接バー&NATOストラップ仕様でした。外観では文字盤がマットブラックに変更され、メルセデス針から剣型のソードハンドへ変わっています。秒針には矢印型のアローハンドを採用し、暗闇でも瞬時に時刻を判読できる工夫が施されました。
またケース裏面にはイギリス国防省のブロードアロー(開発形マーク)やシリアル番号、支給年の刻印が入り、軍用品として識別可能です。回転ベゼルは60分フル目盛りで、潜水任務で経過時間を精密に把握できるよう改良されています。こうした「ミリタリーサブ」は、ビジネスでも使える高級感とミリタリー感を兼ね備え、時計ファンから絶大な支持を受けるモデルとなっています。
サブマリーナーRef.A6538(ビッグクラウン)
「ビッグクラウン」の愛称で知られる6538は、1950年代に製造された大型リューズモデルです。フランス海軍や英軍が装備した記録があり、特にフランス海軍はムートン将軍専用モデルとして採用した例も伝わっています。耐圧は初期は100m級だったものを後に200m級に向上させており、潜水用時計の元祖的存在です。
デザイン的には、当時まだリューズガードがない大きなリューズを備える点やインデックスの配置、秒針の根元に■マークが入る仕様が特徴です。ビンテージロレックスらしいクラシカルな魅力と、戦後間もないタフなイメージが重なり合っており、現在でも愛好家の間で根強い人気を誇っています。
オイスターデイトRef.6694(UAE空軍モデル)
1970年代に中東地域向けに製造されたダイアルプレートが特徴的なモデルです。UAE空軍へ支給された例があり、文字盤色やArabianマーク等のカスタム点が確認されています。ベースは手巻きのオイスターデイトですのでサイズは小ぶりですが、視認性と堅牢さを保ちながらシンプルなミリタリーテイストをまとっています。
このモデルのように、国や支給先に合わせて特別仕様が行われたロレックスは他にも存在し、一般流通にはほとんど出てこないためコレクターには貴重視されています。
その他のロレックス軍用モデル
上記以外にも、ロレックス製品のなかには軍用チューンを受けたものがあります。GMTマスターやエクスプローラーなどは、特定の国の軍用時計として表立った事例は少ないものの、その堅牢設計は軍用途にも適しています。また、COMEXなどプロフェッショナル市場向けモデルも潜水任務向けに開発されたため、ミリタリーウォッチに通じる精神を共有しています。
総じて言えるのは、軍隊がロレックスを積極的に大量調達することは少なかったため、見つけられるモデルはいずれもかなり希少ということです。その希少性と軍用スペックゆえに、時計ファンとコレクターの間で高い評価を受けています。
ロレックス軍用時計の特徴と機能

続いて、ロレックス軍用時計に共通して見られる機能やデザインの特徴を確認しましょう。ここを理解すると、実用性だけでなく「美しく見える秘密」も見えてきます。
耐久性の追求(ステンレスケース、防水機能)
ロレックス軍用モデルには、堅牢なステンレススチールケースが採用されています。硬度と耐腐食性に優れる904Lあるいは316Lステンレスを使用し、過酷な環境にも耐えられます。防水性能も民生モデル以上に高めており、深海潜水に対応できるものや高い気密を保つケースバック構造を持つモデルもあります。
内部ムーブメントも耐衝撃性に配慮しており、当時のミルスペック試験を満たすための強靭さを備えています。部隊行動中、落下や衝突、強制潜水などが時計に加わっても動作し続ける信頼性は、軍用時計の必須条件と言えます。
視認性重視の文字盤と針
暗闇や荒天でも時刻を読みやすくするため、文字盤はマットな黒色が基本です。これに対し余計な反射を抑えることで視認性が向上します。インデックスや針には大きめの夜光塗料が塗布されており、暗所での視認性を確保しています。例として、軍用サブマリーナーでは秒針や分針に剣形、分針に矢印型を採用し、時間の読み間違いを減らす工夫がされています。
上記のHodinkee記事でも解説されるように、店舗向けサブマリーナーが採用するメルセデスハンドと異なり、軍用モデルでは亜鉛シルバーの剣針や矢印針を使用するものが存在します。これらは水中や暗闇で瞬時に判別できる形状で、軍の潜水要員向けに設計されたものです。
ナイロンストラップと堅牢構造
装着性と安全性を考え、ロレックス軍用時計は金属ブレスレットではなくナイロン製NATOストラップを用いることが多くあります。このストラップは水に強く、劣化が少ないため、戦場や水中の任務で有利です。また、ミルウオッチ仕様として溶接バーでラグを固定して落下防止性を高めています。
この溶接式ラグは文字通りケースとストラップ取り付けバーを一体化した構造で、衝撃でばね棒が外れて時計本体が脱落する事故を防ぎます。こうした構造は現代のタクティカルウォッチにも引き継がれており、ロレックスの軍用時計が先駆けと言えます。
ミルスペック刻印と識別子
ケースバックには、その時計が軍装備品であることを示す刻印が入っていることがあります。イギリス軍モデルではブロードアロー、フランス軍モデルではアルファベット「Z」の記号など、国ごとに異なるマークと管理番号が打刻されていました。これにより、どの部隊に調達されたものかが一目でわかる仕組みです。
加えて、インデックスやダイヤル上に「トリチウム使用」を示す「Tマーク」が追加されるなど、軍用ならではの要素も見られます。これらの仕様は軍用モデル特有のディテールであり、コレクターが真贋を見分ける重要な手がかりとなっています。
ミリタリーデザインに見るロレックスの美学
ロレックス軍用時計は、過酷な任務に耐える実用性を追求する一方で、シンプルで統一感のあるデザイン美学を持っています。ここでは、その美的要素に焦点を当ててみましょう。
機能美を体現するシンメトリーデザイン
文字盤やベゼルには余計な装飾がなく、視認性を優先したバランスの良い配置がなされています。例えばマットブラックの文字盤に白い太い目盛り、太めの針を組み合わせるなど、明快なコントラストがロレックスらしい上品な美しさを生んでいます。このシンメトリーな美しさは、ミリタリーモデルだけでなく通常モデルにも共通する魅力です。
また、全周目盛りのベゼルデザインなど、実用性に基づく形状がそのまま洗練された造形美となっています。軍用に開発された回転ベゼルは視認性を高めるだけでなく、回しやすいエッジの加工や操作感も計算されており、使い勝手が美学の一部となっています。
質実剛健な無骨さが生む魅力
軍用モデルには派手さを抑えた無骨な魅力がありますが、これはロレックスが究極の実用性を追求した結果です。鍛え抜かれたステンレスケースは研ぎ澄まされた輝きを放ちつつも堅牢で、その存在感はどこか頼もしく、男らしい美学が感じられます。
控えめな装飾に反して、ケースの仕上げや細部には職人技が光ります。ベゼルやケースサイドのエッジはシャープで、ポリッシュとヘアライン処理が組み合わさった表面が光を放つ様子は、ミリタリー・ロレックスならではの「武骨ながら綺麗」という美しさを生み出しています。
経年変化とヴィンテージの風合い
ミリタリーウォッチは実際に過酷な環境で使われることが多く、文字盤や針の夜光、ケースに年月が刻まれることで独特の雰囲気が生まれます。長い年月を経て風合いを増したパティーナ(経年変化)は、単なる機能時計以上の芸術的な佇まいを感じさせる要素です。
たとえば古いミリタリーサブのインデックスはトリチウム夜光が経年でアイボリー色に変化し、針の根元にさりげなく入るロゴや刻印もアンティーク調の味わいを醸成します。こうした「使い込まれた美しさ」は、新品の高級時計には真似のできない深い魅力を生み出しており、軍用ロレックスならではの美学となっています。
ロレックス軍用時計のコレクター評価と人気

今日、ロレックス軍用時計は世界中のコレクターや時計愛好家から非常に高い評価を得ています。次に、その人気の理由と現状について触れていきます。
希少性とコレクターズ需要
ロレックスが本格的に軍事向けに大量生産した時期はごくわずかで、市場には非常に少数しか流通しません。特に歴史的な軍用モデルはオリジナルの個体が稀少で、状態良く見つかること自体が珍しいため、コレクター間での需要はきわめて高いです。
この希少性は、「所有する満足感」と「投資的価値」の両面で熱狂を生み、ビンテージロレックス市場でも特別なステータスを持っています。近年では情報交換や鑑定サービスも充実し、専門家やネットコミュニティの間で評価が体系化されつつあります。
熱狂的な収集理由
なぜこれほどまでに人気があるのでしょうか。一つは上述の耐久性やミリタリー仕様という実用面での信頼感に加え、ロレックスブランドのステータスが合わさっている点です。すなわち、「物語性と信頼性」が両立している点がコレクターの心をつかんでいます。
加えて、ミリタリーロレックス独特のデザインや刻印に価値を見いだすマニアが多く、各モデルごとの個性豊かな違いを研究・収集する楽しみもあります。さらにモダンなファッションとの相性も良く、ミリタリーテイストのストラップを替えて日常使いする愛好家も増えています。
ファッション性と現代での評価
近年、ヴィンテージウォッチ本来の価値に加え、ファッションアイテムとしての人気も高まっています。ユニセックスで着用できるサイズ感やシンプルな無骨さは、年代を問わず支持されやすいデザインです。現代のスタイリッシュな着こなしにもなじむため、ハリウッド映画や雑誌でも取り上げられることが増えています。
また、ロレックス自体がスポーツモデルの耐久性を磨き続けていることもあり、軍用ルーツを持つモデルはスポーツラインの源流として注目されています。こうした背景から、ロレックス軍用時計は単なるコレクターズアイテムにとどまらず、現代人にも響く「普遍的な魅力」を放つ存在となっているのです。
まとめ
ロレックスの軍用時計は、まさに「機能美」の体現です。軍用という過酷な要求から生まれた堅牢さと、ロレックスらしい上品さが同居し、着用者に安心感と高揚感を与えてくれます。前述のように、ミリタリースペックを持ちながらもシンプルで洗練されたデザインは、多くの人を魅了し続けています。
2025年現在、その希少性と完成度の高さから評価はますます高まっています。新旧ファン問わず、多くの時計愛好家が軍用ロレックスを憧れの一品としています。実用性だけでなくデザインにもこだわり抜かれた軍用ロレックスは、これからも時代を超えて愛され続けることでしょう。